全国視聴覚教育連盟

お問い合わせ先

    全国視聴覚教育連盟事務局

    〒105-0001
    東京都港区虎ノ門1-19-5
    虎ノ門1丁目森ビルB1
    (財)日本視聴覚教育協会内

    所在地(地図)

    TEL 03-3591-2186
    FAX 03-3597-0564

    就業時間 9:30〜17:30
    就業曜日 月曜日〜金曜日
          (祝祭・日は休み)

視聴覚教育時報 平成21年5月号(通巻649号)index

◆私のことば 収集に寄せる熱意/遠藤 眞(神奈川県立図書館長・全国視聴覚教育連盟副会長)

◆キーパーソンに聴く 視聴覚ライブラリーのこれから「学校と社会教育を繋ぐ視聴覚教育の原点」 平沢茂 後編

◆平成19年度「教育メディア利用推進に関する調査研究事業」報告書10 夏休み活弁ワークショップ(広島市映像文化ライブラリー)

◆私のことば 収集に寄せる熱意/遠藤 眞(神奈川県立図書館長・全国視聴覚教育連盟副会長)

 本館の音楽資料の収集は、クラシックとジャズの2つの分野に特化して行っている。これは、本館が県立音楽堂と一体で整備、運営されて来た歴史と無縁ではない。それまでも、LPレコードの時代から「名曲解説全集」掲載の作曲家のクラシック作品が収集の核であった。音楽堂の設立と、その運営に永く尽力された音楽評論家の野村光一氏のご遺族から所蔵資料の寄贈を受けた。これは「野村光一文庫」となり収集方針を補強するものになっている。したがって、歌謡曲やポップスについては限定的な収集であった。
 
 県立の図書館の役割として、市町村が収集しにくい資料を収集することや、レンタル・ショップなどで利用できるCDの収集は避け、公的機関として民間と重複しない収集、貸出を行っている。こうしたクラシック作品収集で特徴的なのは篤志家より、平成15年から継続して寄贈を受けていることである。篤志家は、熱烈なリヒャルト・ワーグナー愛好家、いわゆるワグネリアンで、これらの全4、433点の内CDは1、129点で内970点86%がワーグナーの歌劇及び序曲・間奏曲、及びアリア集であり、同時に頂いているLPレコード2、698点の内ワーグナー関係は270点10%程度だが、歌劇、歌曲集が971点36%と際立った特徴を持っている。日本にあまり輸入されていない珍しい、CD、LPレコードも少なくない。
 
 このコレクションの中に、演奏に4日間を必要とする大作『ニーベルングの指輪』の4部作については、9セットのCDと、5セットのレーザー・ディスクが含まれている。
 この寄贈により本館で総合的な”ワーグナー・コレクション“が形成されることとなった。音楽の枠を超え、総合芸術としての歌劇を”楽劇“として高めたワーグナーは重要な作曲家である。このドイツ・ロマン派の巨人の作品は重要であっても高額のCDも多く、充分に収集できるものではない。このワーグナー作品の収集に寄せる熱意とそれを公共のものとして図書館に譲る決断を大変に有難いことと受け止めている。そのご好意を広く県民、利用者に最大限活用していただけるように心がけて行きたい。

◆キーパーソンに聴く 視聴覚ライブラリーのこれから 「学校と社会教育を繋ぐ視聴覚教育の原点」 平沢茂 後編

3. 学校教育と社会教育の現状
 
○学校教育と社会教育の結節点としての視聴覚ライブラリー
 
(松田)
 もともと学校が主導して取り組んできた「視聴覚教育」は、現在では、学校教育と社会教育が連携して取り組める部分が多いにも関わらず、学校教育と社会教育は切り離されてしまったように思います。メディアが進歩しつつある現在、ライブラリーは一体何が出来るのでしょうか。

 
(平沢)
 自作コンクールの例のように、優れた作品を制作するライブラリーは学校との親密に連携し、さらに地域に対してもしっかりサービスが出来ていて、まさに社会教育と学校教育をライブラリーが繋いでいますよね。
 
 ライブラリーは、戦後のGHQの方針のもと社会教育施設としてスタートし、学校との連携を密にしながら発展してきましたが、いつのまにか両者は切り離されてしまい、地域のライブラリーは疲弊しています。
 
 一方、学校とライブラリーが親密な地域では、今でもライブラリーは活発に活動しています。たとえば昨年、岡崎市のある学校を訪問してお話をうかがったのですが、そのなかでライブラリーの話題は必ず上がってきます。岡崎市は市全体で視聴覚教育、視聴覚文化に造詣の深い人物層が厚く、学校とライブラリーの連携が簡単に崩れないような仕組みも作られています。私は羨ましかったですね。どの地域でも、少し意識すれば出来ることだと思います。山形県の北村山地域にも同じことが言えそうですし、ほかにもそうした地域はあるのではないでしょうか。
 

○視聴覚ライブラリー職員と教育委員会の意識改革の必要性
 
(松田)
 昨年の調査によると、メディア関係の講座や研修437事業のうち、学校教育を対象とする事業は全体の約3分の1を占め、学校教育とライブラリーが深く係わっていることがわかります。しかし、現実には学校教育とライブラリーはそれぞれ別々の見方をしていて、今後の進め方、方向性に差異が生じていますが、この辺りはどのように思われますか。
 
(平沢)
 私は2つ問題があると思います。
 
 1つはライブラリーの職員の意識の問題で、「ライブラリーは学校へのサービスが活動の主体ではなく、地域の施設である」と簡単に割り切っている傾向が強いのではないかと思います。職員は、ライブラリーが直接的に学校と関わり合うことで、活動の幅が広がることを認識する必要がありますね。
 自作教材コンクールのライブラリーの出品作品の制作に学校の先生が関わっているという事実は重要で、職員が「ライブラリーの原点は何だろう」と考えれば、社会教育・学校教育という区分自体がナンセンスであることに気が付くはずです。
 学校とライブラリーの視点のズレを改善するには、私は、まず職員の意識改革が必要だと思いますね。
 
 ただ、職員の中には学校と連携したいと思っているものの、学校側が応じない地域も多々あると思います。少し別の話になりますが、たとえば子どもの学力低下の問題では、学校は視聴覚教育どころではなく、国語や算数の点数を1点でも上げることに意識が向き、学校の側が視聴覚ライブラリーに振り向かなくなる可能性が全くないとはいえません。だからこそ、ライブラリーには頑張って欲しいと思うのです。
 
 2つ目は、そういう土壌を作ってしまった教育委員会側の問題が挙げられます。ライブラリーは社会教育課(生涯学習課)所管の社会教育・生涯学習施設だから、学校とはあまり関係がないと認識され、社会教育課と学校教育課が乖離している状況がみられます。教育委員会の中にも、ライブラリーの意味を十分に理解していないところが多いです。
 
 私は大学で講義を担当する「教育工学」の科目名の後に、あえて「(視聴覚教育を含む)」と記しています。視聴覚教育の原点を学生に伝えることの重要性を意識して3〜4年前からですが、毎回授業のはじめの15〜30分を、映像コンクールや国際短編映画祭の受賞作品を学生に見せることに費やしています。
 現在の若者の一番大きな情報源はインターネットであり、教育的に見て良質のビデオや映画の映像に接する機会が本当に少なく、情報源は意外と乏しいように思います。
 はじめは「見たことのない映像で面白かった」といったような感想でも、ある程度構造化して映像を見せていくと、授業で教科書と黒板で教えるだけではなく、映像を見せることの効果に次第に学生は気が付くようになります。そして、映像によって学生はいろんな意味で揺さぶられ、「どこへ行けばその映像が手に入りますか?」というような質問も出るようになり、なかにはライブラリーまで足を運ぶ学生も出てきました。
 全15回の講義を通して、単に知識を増やすだけではなく、人間全体に関わるような情報に触れ、ときには情動が揺さぶられる作品に出会い、そこで何かを感じることが非常に大事だと学生は感じるようになるのです。
 
 私はライブラリーの人に、先生やこどもたちに、このことを伝えてもらいたいと思うんです。ライブラリーが保管する膨大な映像資料のなかには、古くても非常に優れた作品があります。感動する作品というのは、時代を問いません。子どもにも先生にももっと見せてもらいたい。そういうことを知ってもらうためにも、ライブラリーには先生向けの研修会を開いてもらいたいですね。
 またライブラリーが研修会を開いたときに、教育委員会がバックアップすることも大切です。ライブラリーの研修会に関心を持たない先生が多いのが現状です。せっかく研修会を開いても出席者が少なかったら意味はありません。
 教育委員会の中で、社会教育・学校教育の区分を越えて、本当に今必要な学力は何かということに踏み込んだときに、実はライブラリーの研修に意味あることに気が付いて欲しいと思いますね。

 

4. 視聴覚ライブラリーの新たな取り組み―地域や社会教育施設との連携拡大へ
 
(松田)
 現在、各地のライブラリーで、新たなサービスとして、従来の映像教材貸し出しサービスに加えて、地域の自作映像教材の配信システムに取り組もうとする動きがあります。
 地域の貴重な映像資料が捨てられつつある現状を打開するためにも、地域の映像教材をライブラリーがネットで配信すれば、学校の地域学習はもちろん、社会教育施設の講座や研究会でも使えるようになります。こういう方向をどのように思われますか。

 
(平沢)
 大賛成です。ぜひ取り組んでもらいたいと思います。
 これに関連してお話すると、学校の先生はもちろん、地域の写真愛好家が撮影した写真の中に貴重な映像資料もあるんですよね。
 
 先日、公民館利用者の研修会を訪問したときの話しをご紹介しますが、その公民館では、厳しい財政状況の打開策として、公民館の空き部屋の利用料金を、「地域に還元される活動を行うグループ」には無料化や割引を行い、「趣味や教養を目的とするグループ」には若干高めの金額を設定していました。
 そこで、ある高齢者の写真愛好家のグループから、「『地域還元』といわれても、公民館で展示は行っていますが、それが『地域還元』になるのかよくわからない」と尋ねられました。私は、地域が抱える課題を敢えて風景として撮影し、地域の問題が画像的に示せるような展示会を開催したり、学校と連携してこどもにも作品を見せるような活動が出来ることをお話しました。
 
 すでにこのような活動を実際に行っている地域もあります。視聴覚的なメディアを集めて、提供するのはライブラリー本来の仕事ですし、ライブラリーがそういった情報を収集して連携を行っていけば、地域の様々な映像資料を入手することができます。それらを集積し、著作権の問題をクリアしながら、地域の人や学校のこどもたちにも見てもらう、これはライブラリーだからこそ出来る、独自の活動といえるでしょう。
 学校とライブラリーの連携のほかに、社会教育施設同士の連携、ライブラリー、図書館、公民館、博物館、そういうものが横に連携するとより総合的な活動が出来ると思います。

―余言
 平沢先生のお話をお聞きして、確かに、視聴覚教育という言い方は希薄になりつつあるが、視聴覚ライブラリーの担当者は、教育の本質に迫るための仕事をフォローしていることを自覚してほしいと痛感した。

◆平成19年度「教育メディア利用推進に関する調査研究事業」報告書10 夏休み活弁ワークショップ(広島市映像文化ライブラリー)

◆事例調査研究委員のコメント
 本ライブラリーは、16ミリフィルムやビデオ等の貸出の他、日本映画の名作や広島にゆかりのある映画フィルム(現在サイレント映画を含め約600本の日本映画を所蔵)を収集、保存、公開している。現在は、サイレント映画を活用する事業に力を入れている。
 本事業は、活動弁士の語りや楽器の演奏などの音を伴って上映されていたサイレント映画の魅力を子どもたちに感じてもらうと共に、子どもたちが活弁の台本を作り、弁士として観客の前で実際に活弁を行うという事業である。
(全視連専門委員・丹治良行)

表題 夏休み活弁ワークショップ
広島市映像文化ライブラリー
平成19年度の総予算額
22、507、000円
うち本実践に関わる予算額
188、000円





0. 実践の概要
 
 広島市映像文化ライブラリーは、学習支援のために16ミリフィルムやビデオを市内の施設や団体に貸し出し、広島市における視聴覚ライブラリーの役割を果たしている。その一方で、日本映画の名作や広島にゆかりのある映画のフィルムを収集、保存、公開するフィルム・アーカイブの機能を持ち、現在、約600本の日本映画を所蔵している。その中には、広島で発見された幻の傑作「忠次旅日記」や、小津安二郎監督の「生れてはみたけれど」などの貴重なサイレント映画が含まれている。2006年度から、こうしたサイレント映画を活用する事業に力を入れ始めたところであり、2007年の夏休みには、サイレント映画を当時の鑑賞スタイルである活弁と生演奏付きで上映する「夏休み活弁シアター」を開催し、これに合わせて子どもを対象とした「夏休み活弁ワークショップ 〜活動弁士にチャレンジ〜」を実施した。このワークショップは、子どもたちが活弁の台本を作り、弁士として観客の前で実際に活弁を行うというもので、体験を通して映画の楽しさを感じてもらおうとする事業である。活動弁士として全国的に活躍し、ワークショップの指導の実績もある佐々木亜希子さんに講師をお願いし、1日目に台本作りと練習、2日目にリハーサルと成果発表、講師の佐々木さんの活弁の鑑賞という流れで行った。

 

1. 実践の背景
 
 かつてサイレント映画は、その名称とはうらはらに、活動弁士の語りや楽器の演奏などの音を伴って上映されていた。映像に弁士や演奏者のパフォーマンスが加わることにより、映像も音声も機械的に再生する現在の映画とは異なる、ライブ的な要素があった。当館では、そうしたサイレント映画の本来の魅力を伝えるべく、「忠次旅日記」などの所蔵するサイレント映画を活弁付きで上映する事業を何度か行ってきたが、残念ながら数年に1度という限られた実施にとどまっていた。2006年度からは、フィルム・アーカイブの機能を持つ映像の専門施設としての特色をアピールする事業として、サイレント映画に関連した事業に力を入れ始めた。2006年の夏休みには、今回のワークショップの講師である佐々木亜希子さんに弁士を務めていただいて「キッズ活弁シアター」を開催し、2007年度には、プロの無声映画伴奏者や地元広島の音楽家の演奏とともにサイレント映画を上映する「サウンド・アンド・サイレント」という企画を3回実施した。2007年の「夏休み活弁シアター」と「夏休み活弁ワークショップ」も、そうしたサイレント映画関連事業の一環として実施したものである。

 

2. 実践のねらい
 

 サイレント映画を活弁や生演奏とともに上映するサイレント映画関連事業は、往年の映画ファンはもちろん、子どもやファミリー層などを含めた幅広い観客に、映画の原点ともいえるサイレント映画の本来の魅力を味わってもらい、楽しみながら映画の多様性や歴史を実感してもらうことをねらいとしている。子どもを対象とした「夏休み活弁ワークショップ」は、映画の古典的な形であるサイレント映画と、講談などの伝統的な話芸に通じる性格を持つ活弁、そうした古典的な映像文化と子どもたちが出会う場を設け、ワークショップの体験を通じて映画の楽しさや歴史を感じ取ってもらい、子どもたちが映画に親しみを持つきっかけになればという思いで企画した事業である。また、活弁は、演劇や朗読、アニメーションのアフレコなどに通じる要素があり、ワークショップの中で、セリフを考えたり、大勢の観客の前で声を出して語るといったことを実践することにより、子どもたちの創造力や表現力を高めるということも、期待する効果の一つであった。

 

3. 実践内容
 

 「夏休み活弁ワークショップ」は、「夏休み活弁シアター」と連動させながら、下記の2日間の日程で開催した。
 
・8月11日(土)10:00〜18 :00台本づくり、練習(会場:1階試写試聴室)
・8月12日(日)10:00〜16:30リハーサル、発表、鑑賞(会場:2階ホール 169席)
 
 参加者は、小学校4年生が4人、小学校6年生が1人の計5人で、全て男子だった。子どもたちは、「日本一 桃太郎」(日本のアニメーション)と「ドタバタ撮影所」(ハリウッドの喜劇)という、2本の短編映画に活弁をつけることになった(上映時間は2本とも約10分)。アニメーションとスラップスティック・コメディ(ドタバタ喜劇)なので、2本とも字幕は少なく、字幕が出る箇所はそのまま字幕を読み、映像だけで進行していく部分に、字幕にはないセリフや場面描写を子どもたちが考えて台本をつくっていくというのが重要な作業で、次のような流れでワークショップが行われた。なお、台本づくりや練習には、映画を繰り返し見ることが出来るようDVDを使用し、ホールでのリハーサルと本番の成果発表では、16ミリのフィルムを使用した。
 
(1日目)
・「日本一 桃太郎」と「ドタバタ撮影所」の2本を、会場のやや大きめのスクリーンにビデオプロジェクターで上映し、子どもたちが鑑賞。(音楽はついているが活弁はない状態で)
・次に、講師の佐々木さんが2本の映画に活弁をつけて見せる。
・講師から活弁についての話を聞き、発音練習など基礎を学ぶ。
・どちらの映画を担当するか、子どもたちが話し合う。
・「日本一 桃太郎」が3人、「ドタバタ撮影所」が2人という組み合わせで、2つのグループ分かれる。
・グループごとにモニターで映画を見ながら、自分たちでセリフを考え台本づくりを進める。
・中間発表。スクリーンに映画を上映し、台本が出来上がったところまで、子どもたちが活弁をつける。
・残りの部分の台本づくりを続ける。
・台本が出来上がったら、再びスクリーンに映画を映し、最後まで通しで活弁をつける。
 
(2日目)
・2階ホールの大きなスクリーンに「日本一 桃太郎」と「ドタバタ撮影所」を映写し、グループごとにリハーサルを行う。
・講師の佐々木さんのリハーサルの様子を見学する。
・1日目の会場である試写試聴室で自主練習をする。
・成果発表。「日本一 桃太郎」、「ドタバタ撮影所」の順で映写し、約140人の観客の前で子どもたちが活弁を披露する。
・「夏休み活弁シアター」を鑑賞。
 上映作品:「出来ごころ」(小津安二郎監督)
 弁士:佐々木亜希子
 演奏:FEBO(フェボ)〜小沢あき(ギタリスト)と永田雅代(ピアニスト)のデュオ。

 

4. 特長・工夫・努力した点
 

 参加者を募集する広報の面では、近隣の小学校や中学校、さらに他の文化施設の工作等のワークショップに参加している子どもたちにチラシを配るなどしてPRに努めた。小学校4年生から中学生までを対象に参加者を募集したが、中学生の申込みはなく、小学生8人の申込みがあり、都合により当日参加できなくなった子どももいたため、最終的には小学生の男子5人が活動弁士に挑戦することになった。
 
 子どもたちが活弁をつける映画は、子どもたちが楽しみながら活弁ができるように、また、子どもたちの発表を見る観客も変化を楽しめるようにと、桃太郎のアニメーション「日本一 桃太郎」と、映画の撮影所で巻き起こる騒動を描いた「ドタバタ撮影所」の2本とした。子どもたちは、古い映画であるにもかかわらず、予想以上に楽しみながら、台本づくりや練習に取り組んでいた。
 
 1日目の台本づくりでは、講師の佐々木さんは子どもたちに細かく指示を与えることはせず、彼らの自主性を尊重して、字幕にない情景描写やセリフなどを自由に考えさせ、彼ら自身の発想や言葉を引き出すようにしていた。大人顔負けの的確な表現があったり、思わず笑いを誘うような言葉が飛び出したり、子どもたちの豊かな創造力で台本がつくられていった。また、例えば、「日本一 桃太郎」であれば、桃太郎の声をA君が担当し、鬼の声をB君が担当するといった具合に、役割を決めて作業を進めたため、子どもたちはアニメーションのアフレコに近い感覚で、人物になりきって声を出していた。

 

5. 実践結果
 

 1日目は、午前10時から午後6時までの、子どもたちにとっては長時間のスケジュールだったが、いざ台本づくりを始めると、わずか10分の映画とはいえ、説明やセリフを考えるのには予想以上に時間がかかり、はたして終了時間までに台本が完成するのだろうかと不安になる時間帯もあったが、後半、子どもたちも時間を意識してラストスパートをかけ、無事台本を完成することができた。
 
 2日目の午前中、ホールのスクリーンに映画を映し、本番さながらのリハーサルを行った。子どもたちは思い切って声を出していたが、会場が広くなったせいか、幾分緊張も感じられた。講師の佐々木さんのリハーサルを見学した後は、特に講師や担当者が指示しなくても、子どもたちから自主的に本番に向けてモニターを見ながら練習に励んでいた。
 
 午後2時、いよいよ成果発表。最初の「日本一 桃太郎」は小学6年生1人と4年生2人の、3人のグループで活弁を担当。おばあさん役の子が、おばあさんの声を雰囲気を出して語り、桃太郎と鬼が戦う場面では活発な声が飛び交った。続く「ドタバタ撮影所」は4年生2人が担当した。女優役の子は女性らしい声でセリフを言い、擬音や叫び声を上手く使って、スタジオに起きるパニックを活き活きと表現し、会場を沸かせた。自分たちの活弁が終わった後は、客席で講師の佐々木さんと音楽ユニットFEBOの演奏による「出来ごころ」を鑑賞し、2日間のワークショップを締めくくった。

 

6. 考察および今後の課題
 

 ワークショップに参加した子どもたちは、最初は「活弁」と聞いても何の事かよく分からなかったが、体験してみると、とても楽しかったという感想を述べていて、子どもたちにとっても非常に達成感のあるワークショップだったと言えると思う。また、友達ができたという感想もあり、グループで話し合いながら台本をつくり、さらに一緒に活弁を体験することによって、協調性やチームワークを養うことができたのではないかと思われる。映像をもとに、自由な発想で説明やセリフを考え、人物になりきって大勢の観客の前で堂々と活弁を披露する子どもたちの姿を見て、表現力や演技力など、担当者として子どもたちの持つ力に驚かされた2日間だった。「夏休み活弁シアター」の観客からは、活弁と生演奏付きという普段なかなか体験できない形でサイレント映画を堪能できたといった満足の声とともに、子どもたちの活弁もよかったという声が多かった。子どもたちの活弁が終わり、観客が大きな拍手を送った瞬間は、会場の子どもと大人が一体となり、活弁が世代間の交流にも役立ったのではないかという感慨を抱かせられた。
 
 今回、対象が80年近く前の古い映画であるにもかかわらず、子どもたちは抵抗感を示すことなく、楽しんでワークショップに取り組んでいた。その理由の一つには、課題に選ばれた2本の映画が、子どもたちが親しみやすい動きの面白さにあふれていたということが考えられる。また、日本には、人形浄瑠璃や紙芝居など、活弁と同様に視覚的なものに語りをつけるという文化があり、現代の子どもたちも、アニメーションのアフレコなどを通して、ビジュアル+語りという形式に無意識のうちに慣れ親しんでいたということだろうか。いずれにせよ、サイレント映画は過去に作られたものでありながら、現代の子どもたちにとって遠い存在ではないということが、今回のワークショップを通じて実感することができた。
 
 子どもを対象としたワークショップは当館では初めての試みで、手探りの部分も多かったが、サイレント映画や活弁というクラシックなものと、今の子どもたちが出会うことによって、様々な成果と発見があった今回のワークショップは、非常に手ごたえのある事業だった。今回は、活弁を知らない子どもや親に事業の内容をどう伝えるかといった広報の面で苦労したが、次回は、作文、演劇、朗読、アニメーションのアフレコなど、活弁に通じる分野に関心のある子どもたちに上手く情報が届くように工夫しながら、広報を進めて行ければと思う。映像文化が活き活きとした形で次の世代に引き継がれていくよう、「活弁ワークショップ」のような子どもたちと映画とが出会う事業を、今後も継続していきたい。

7. ホームページアドレス

http://www.cf.city.hiroshima.jp/eizou/

メールマガジンバックナンバー

バックナンバーはこちらから

Copyright (C) 2009 National Association of Audio-Visual Techniques in Adult Education , All rights reserved.