視聴覚教育時報 平成25年12月号(通巻682号)

私のことば/今こそ社会教育の出番

馬場 祐次朗(徳島大学大学開放実践センター教授)

 先日、文部科学省が平成24年度の全国の小・中・高等学校におけるいじめの把握状況について、19万8、000件と前年度の約3倍、過去最多になったと調査結果を公表した。

 調査によれば、いじめの態様としては「冷やかし、からかい」が64%と最も多くなっているが、気になるのは「パソコンや携帯電話等による誹謗中傷」が7、855件と前年度より4、863件も増えている点だ。

 最近、電車内の風景は大きく様変わりし、ほとんどの人がスマートフォンにくぎ付けになっている。

 そのような中、ネットいじめやネット依存、ネット犯罪に子どもたちが巻き込まれる事件等、ネットコミュニティーのネガティブな影響がマスコミ等でも取り上げられるようになっている。

 ICT教育については、これまでも学校教育、社会教育においてその重要性が指摘されており、インターネットを活用した先端的で優れた教育実践が全国各地で取り組まれている。

 さらに、情報モラル教育について、平成23年3月に国立教育政策研究所が「情報モラル教育実践ガイダンス」を作成したところであり、学校教育においては、この実践指針に沿って、教育課程の中で積極的な取り組みが期待されるところである。

 問題は社会教育だ。インターネット上での誹謗・中傷やLINEの〝既読スルー〟に悩む姿など、子どもとインターネットをめぐる現状を多くの大人が認識していないことは想像に難くない。

 情報社会の落とし穴から子どもたちを守るためには、保護者はもちろん地域住民も、ICTの活用能力とともに、情報社会の倫理や法の理解と遵守、安全への知恵、情報セキュリティーなど情報モラルに関する知識・技術を学ぶことが極めて大切である。

 そのためには、社会教育における情報モラル教育のガイドラインや学習プログラムの早急な開発が期待されるところである。すなわち、今こそ社会教育の出番だと考える。

平成25年度 第17回視聴覚教育総合全国大会・第64回放送教育研究会全国大会 合同大会(北海道大会)報告

 去る10月25日(金)・26日(土)の両日、第17回視聴覚教育総合全国大会並びに第64回放送教育研究会全国大会合同大会(北海道大会)が、「ネットワーク社会におけるメディアとヒューマンコミュニケーション¦放送教育・ICT活用教育が拓く学びの創造¦」をテーマに、旭川市大雪クリスタルホールを主会場に開催された。1日目は市内各7会場で公開保育・授業およびテーマ別研究交流を実施。2日目は大雪クリスタルホールにおいて団体別研究会や、開会行事・表彰式、NHKプレゼンテーション、スペシャルトークなどを内容とする全体会を実施した。2日間で延べ1、164名の参加を得て盛大に行われた本大会では、全国からさまざまな優れた実践はもちろん、旭川市内の特色ある実践も多く公開・発表され、参加 者はその成果をそれぞれ地元へ持ち帰った。2日間の大会のもようを写真で紹介するとともに全視連の2分科会の報告を行う。

●第1日目(10月25日(金))公開保育・授業/テーマ別研究交流会

 大会第1日目は公開保育・授業の後、テーマ別研究交流会を実施した。テーマは放送番組活用、ICTを活用した授業づくり、特別支援、生涯学習メディアなど10のテーマからなる分科会を旭川市内の各公開保育園・公開授業校など7会場にて実施された。

 

 

 

●第2日目(10月26日(土))団体別研究、開会行事・功労者表彰、NHKプレゼンテーション、スペシャルトーク

【団体別研究】

 第2日目は、旭川市大雪クリスタルホールにおいて、午前中4会場で団体別研究が行われ、各団体がそれぞれ急速な情報化の進展に伴う新たな課題への対応やICTの利活用などを課題・テーマとして発表や協議が行われ、講師からの適切な助言・指導を受け、実りある研究となった。

 

 

 

【開会行事・功労者表彰】

 午後の合同全体会は、最初に開会行事が行われ、主催者挨拶として守屋一幸全国放送教育研究会連盟副理事長が、北海道大会実行委員長として鐘ヶ江義道氏が、また文部科学大臣祝辞として文部科学省生涯学習政策局情報教育課長補佐の西條英吾氏にご祝辞をいただいた。その後、視聴覚・放送教育の各団体の功労者表彰が執り行われた。

【スペシャルトーク「大河ドラマと女優 松坂慶子」】

 「大河ドラマ」の7作品に出演の「日本を代表する大河の女優」松坂慶子さんとスペシャルドラマ「坂の上の雲」の総指揮にあたるなど、数々のドラマ演出を手掛けたNHKエンタープライズのエグゼグティブ・プロデューサーの西村与志木さんのスペシャルトーク。出演された「大河ドラマ」の7作品の映像を見ながら、また、その役柄をどのような思いを持って演じてきたのかなど、その時のエピソードを交え語っていただき、女優として大きく成長し、次のステップにいく姿をうかがうことができた。参会者からの「後輩の指導について」の質問にも、「指導はできないが、若い女優さんと仕事をしていると、一生懸命やっていて、逆に学ぶことがあって面白い」という言葉に人間味溢れる人柄に触れることができた。

北海道大会 □テーマ別研究交流会 〈10月25日(金)〉 テーマ「地域に根差した市民のための生涯学習メディアの活用」

  • 助言者:桜庭 望(日本生涯教育学会北海道支部)
  • 報告者:佐々木束(NPO法人 NEXTDAY)
  • 報告者:吉田貴彦(旭川医科大学)
  • 司会者:照井 始(全視連副専門委員長)
  • 運営・記録者:村上長彦(全視連副専門委員長)

 

 

1.発表概要

(1)「NPOによる町内会活動支援 〜情報ツールとしてのタブレット活用〜」(佐々木氏報告)

  • 会員は24名で、NEXTDAYの前にPC│Rという任意団体で活動を開始(1998年)した。
  • PC│Rでは企業から協賛金をもらって、校内のネット環境の整備を行った。
  • 2004年にNPOとなり、学校関係や社会福祉施設にパソコンを寄贈する活動やパソコン講座を市民向けに行ってNPOとしての収入を確保し、それをもとに活動するという状況。
  • 市民向けパソコン講習会事業部と教育の情報化事業部(教員の事業活用を支援)で活動している。
  • 2011年、2012年と市民のIT活用化支援として札幌市の新たなIT活用支援事業に地域コミュニティの支援につながるIT活用を提案し採用。
  • 広報手段の改善やまちづくりセンターとの連携など改善を図り、町内会活動の支援に重点を置いた。
  • 支援の内容は基礎講座、活用講座、iPadの活用支援など。平成25年度は22地区でタブレット講座を実施している。
  • NPOとして先生に支援するのは、子どものためと考えている。
  • タブレット講座は、受講者同士の交流、教え合いが始まり、パソコン講座とは違う効果がある。

(2)「ICTを活用した地域住民の健康づくり支援」(吉田氏報告)

  • 大学では高度な医療にもICTを活用しており、ノウハウを一般市民向けに活用を進めている
  • 旭川医科大学は1973年に東部の地域医療に貢献するために設立され、1994年にはICTを用いた遠隔医療を実践していた。
  • 2003年に健康医療情報を提供する北海道メディカルミュージアムを開始。多地点テレビ会議システムを使用し、最新情報などを提供する。
  • 双方向のため相手の様子もわかることや、病院のライブラリー室や市役所でも様子を見ることができるというメリットがある。
  • 2012年にはオープンインターネットカレッジによるオンデマンド配信をリアルタイムで視聴できない住民のために旭川医大で単独で運営。
  • 2009年健康管理システムとしてウェルネットリンクを開始、民間の病院も参加し、市役所で登録カードを配布している。
  • 体の健康管理、薬手帳、健康診断結果管理、健康相談の4つが現在のコンテンツで記録できる体情報は12種類ある。
  • 2012年にはテレビ電話を活用した看護学科教員による相談を開始した。

2.研究協議

  • NPOによる町内会支援について専門性の維持の工夫について質問があり、仲間同士で教え合いを実践する中でスキルを蓄積したと回答があった。
  • 旭川市近辺の自治体と医科大学との関係について質問があり、4つの高等教育機関が連なり、連携して健康づくりと地域の活性化を図っていること、一般社団法人に移行したとの説明があった。

3.指導助言

  • 生涯学習社会の実現手段が整ってきた。
  • マルチスクリーン、クラウド、スマート革命はコミュニティへの帰属、新しい公共の誕生に向けたデバイスの整備。
  • 今後は、地域格差の解消が重要な達成目標となる。
  • 情報はギブアンドテイクが基本である。

北海道大会 □団体別研究会 〈10月26日(土)〉  テーマ「生涯学習機会の充実と映像メディアサービス」

  • 助言者:生田孝至(新潟大学)
  • 鳥羽野司(札幌市生涯学習センター)
  • 中村康治(メディネット江別)
  • 司会者:照井 始(全視連副専門委員長)
  • 運営・記録者:村上長彦(全視連副専門委員長)

 

 

 

 

1.発表概要

(1)「視聴覚教材の制作 〜地域に密着した特色ある教材〜」(鳥羽野氏発表)

  • 札幌市視聴覚センターは生涯学習の中核施設の中にあり、振興財団が指定管理者として運営。
  • センターの主な業務は、学校教育と生涯学習への支援、年間約5000本の貸出、幼保学校などに無料で搬送、教材の制作、研修事業(学校教員を対象としたビデオ研修、市民対象の16ミリ講習)、ホームページの開設。
  • 地域に密着した特色ある教材の確保のため、視聴覚教材制作委員会による制作を行っている。
  • 完成した教材は、貸し出し及びデジタルアーカイブスで動画配信している。
  • 今後の課題としては、教材制作者の育成と発掘があげられる。そのためビデオ制作ワークショップを開催(年4回)している。
  • 技術向上を図るため、中級や上級編も必要となっている。
  • ちえりあ映像フェスタの開催により、作品を募集し、上映を通してまちの魅力を再発見するとともに、まちづくりの活性化を図っている。
  • 教材の利用回数の増加を目指している。そのため、カリキュラムに合わせた教材の案内を周知強化していくことを検討している。

(2)「映像メディアによる地域の情報発信と生涯学習コンテンツの提供 〜市民活動団体制作ビデオの有効活用事例〜」(中村氏発表)

  • 江別市は札幌市に隣接し、人口12万人の札幌のベッドタウンで大学が4つある。
  • メディネット江別は市の歴史や市民活動を情報発信するために平成19年にスタートし、平成24年に市民活動団体となった。
  • メンバー構成は少数の9名だが、9名それぞれが役割を担って活動を進めている。
  • ホームページ「えべつTV」には累計13万件のアクセスがある。
  • 活動は、ホームページからの情報発信、地域の生涯学習コンテンツ提供、ホームページ制作管理、ビデオ講座を行っている。
  • 実際に、制作した作品の紹介があった。
  • 今後の取り組みとしては、情報発信、生涯学習コンテンツ提供、パソコン講座を計画している。
  • 来年度から江別放送協会を立ち上げ、インターネットテレビで常時情報発信する計画がある。
  • 問題点としては、後継者づくり(平均年齢63歳と高齢化)、活動資金不足がある。

2.研究協議

  • 16ミリ講習に関して質問があり、対象や参加者の状況について説明があった。
  • 地域の映像制作活動をしている人々をつなぐ仕組みが必要だとの意見があったが、参加者から実際に取り組んでみて難しかった点や試みた内容について報告があり、情報交換ができた。

3.指導助言

  • 札幌の16ミリの取り組みは視聴覚教育全盛期の残すべきことがきちんと残っている。
  • 自作の取り組みが進められていることも意義深い。機能がよく発揮されている。
  • 活性化のためにはコーディネーターの機能が重要で、実現は簡単ではないが、それができている。
  • 後継者不足、高齢化が言われるが、若年人口が減少するという中では、高齢期の生き方が重要。
  • 映像を使うが映像が意識されないという使い方が重要で映像教材を使う人の力量が必要となる。
  • デジタル化と使いやすい仕組みをつなげることが必要でデジタル化の理論化が必要。

講師派遣事業 映像制作活動をメインテーマに充実した研修会を展開 ―茨城県・新潟県で実施―

 各加盟団体が実施している研究会・研修会を一層有意義なものにするため、全視連が組織する、「全視連指導協力者会議」の学識経験者の他、要請に応じて講師の派遣を行っています。

 本年度すでに、茨城県及び新潟県において実施された研修会の概要をお知らせします。

【茨城県】平成25年度茨城県視聴覚教育振興会総会後の研修会(講演会)

  • 期日:平成25年7月7日
  • 会場:茨城県生涯学習推進センター
  • 講演主題 「地域文化に着目した映像表現活動の実践と成果~映像表現教育を通じて社会と個人を心豊かにするための活動を目指して~」
  • 講師:伊藤敏朗教授(東京情報大学総合情報学部映像・音響コース長)
  • 講演の趣旨(概略)
     地域映像番組の制作活動が、地域コミュニティの再生に貢献し、関わる人々を幸福にする。自らの大学教育における〝手ごたえ〟から、 地域映像番組の制作は、学生の人間的成長、“幸福になる力”を向上させると確信する。
     自治体や地域団体、視聴覚ライブラリー担当者と、大学や地域住民等との協働によって、映像制作活動をさらに活発化していくことには大きな意義がある。

【新潟県】メディア研修特別講演会

  • 期日:平成25年11月26日
  • 会場:新潟県立生涯学習推進センター
  • 講演主題 「映画は国境を越えるか?~映画制作を通じたネパールへの思い~」
  • 講師:伊藤敏朗教授(東京情報大学総合情報学部映像・音響コース長)
  • メディア研修会の趣旨
     映像を手がかりに文化や歴史に触れることへの社会的関心が高まっている現状を踏まえ、映像と学びのあり方について学習する機会を設け、映像を通して学ぶ楽しさや意義について理解を深める。
  • 講演の概要(抜粋)
    ①映像制作教育への取り組み。
     映像制作を通して表現する力、プロジェクトを遂行できる力、仲間や地域と共生・協同できる力が育まれる。
    ②「映像教育」の目的は、表現能力の習得による自己効力化、地域貢献を通じた社会性の獲得、発信力と洞察力を備えた賢い市民の育成にある。
    ③私とネパールとの出逢い、そこで学んだもの。映画「カタプタリ~風の村の伝説~」の制作を通して。
    *紙数の関係上抜粋して掲載

教育メディア担当者ハンドブック2014企画会議

 教育メディア担当者ハンドブックは、新たに地方教委、生涯学習施設、視聴覚センター・ライブラリー等の担当者となった職員を対象に、教育メディアに関する基本的な情報提供を行う事を目的に作成配布してきました。

 メディアの急速な進歩及び教育メディア関係組織の改編等に対応するため、2年ごとに改訂版を作成してきました。過日、仙台市において東北ブロック専門員会を開催して、教育メディアハンドブック2014改訂版作成のための企画会議が開催されました。

  • 期日:12月11日(水)
  • 会場:仙台市青葉区・中央市民センター

▽作成のための作業分担

 従来のハンドブック項目の見直しと、新担当者の立場から取り上げたらよい項目について各専門委員が事前に検討してきた事項について協議が行われ各委員が項目を分担し、情報収集及び執筆作業を進める事になりました。

▽東北ブロック専門委員

  • 原田成夫(山形県北村山視聴覚教育センター)主査
  • 蓮沼秀行(仙台市教育局生涯学習課)
  • 外舘邦博(盛岡教育事務所管内教育振興協議会)

▽ハンドブック完成版

 教育メディアハンドブック2011は、現在全視連のホームページよりダウンロードできるようになっています。(パスワードは加盟団体へお知らせしておりますが、新たに必要な方は事務局へお問い合わせ下さい。)

 次年度当初には、2014年度版の配布および全視連HPに掲載するように話し合われました。